それは、

二人が一応恋人同士におさまったらしいと、

そんな認識が学園中に広まった頃のことだった。





宵のみぞ知る  番外編 一





彼らは、自分たちの会話などにときどきが混じってくることに違和感を感じなくなっていた。

六年生六人、委員長組の彼らである。

それまではを毛嫌いしていると言っても過言でないくらいだったものもいたというのに、

そんな片鱗などすでに感じない程度にはに対する偏見が彼らの中では薄れ始めていた。

実際、自身が留三郎と付き合う上で少しずつ変わってきたのだろう。

取っつきにくい相手だという先入観はそろそろ消滅しかけており、

授業の話から進路の話、委員会の話、また完全なる私事──仲間にも秘めた恋の話など──を打ち明けたりもする、

ある意味では貴重な聞き手と見なされはじめていた。

なにせ、同学年のくの一はひとりである。

それだけでなにとはなしの特別な感慨も生まれようものだ。

くの一としての実力もさることながら、の考え方はすっきりと聡明でわかりやすい上、意外に口がかたいときている。

悪巧みを共にくわだてるような感覚で、彼らには切り込みづらい部分にが割って入って情報を集めてみたりと、

場は日常生活の中であるが非常に円滑なチームワークが出来上がっていた。

それがにしてみれば彼らの弱みを労せず手にできる状況であると彼らはしばらく気付かなかったが、

自身がそれを切り札に彼らを脅かそうという気が皆無であるようなので、ひとまず安心する次第である。

性別を越えた友人関係というのもあるものだなと彼らはお互いに改めてそのことを思い知った。

あまりそうして親しくすると、一応は恋人である留三郎が妬きはしないかと彼らはしばらく気をつかったが、

そんな様子も皆無であるようなので、今はまったく遠慮のない間柄と相成った。

その日はは六年は組の長屋へ訪れていたのである。

いつもどおりの六人が集まり酒を喰らう横で、はじぃっと月を見上げていた。

三日月であった。

。どうかしたか」

留三郎が恋人の様子を気にかけて、酒の輪からひとり抜けた。

は留三郎を見やり、ええ、別にとどっちつかずの返事を寄越す。

いつかの怪我の具合はどうかと、彼は夜毎の逢瀬で自らいつも確かめることを口に出して問うた。

はもう痛みはないわと答え、また気もそぞろなように月を見上げる。

さすがに不自然なものをおぼえ、留三郎は浮かしたままだった腰をその場に落ち着けてしまった。

目の前にどんと座られては、も無視を決め込むわけにはいかない。

諦めたように視線を戻し、ため息をついた。

「知らせをひとつ、待っているの」

「知らせ?」

「そう。よい知らせなら言うことはないのだけど……少し、遅れているの」

「遅れている……?」

「ええ。今日あたりもう、わかっていていいはずなのだけど……」

嘲笑う口のような嫌な月だわと、は苦い口調で呟いた。

いつの間にかそこにいる皆がの声に耳を傾けていたことに、そこでやっと二人は気付いた。

酒が入り余計に口調の軽くなった小平太がさらりと聞いた。

「なんの知らせさ?」

「……実習の結果よ」

「このところ、お前の手がけた実習があったか?」

不思議そうに仙蔵があとを引き取り問う。

は声には出さずくびを横に振って、続けた。

「私じゃないわ。後輩の、四年生の子なのよ」

「ああ……そりゃ、心配だな」

留三郎が今気がついたというように言った。

といる時間がいちばん長い留三郎は、自然とくの一の後輩達の話をよく聞くことになる。

数人の後輩たちが実習で十日ほど留守にするという話を、しばらく前に聞いていたのを思い出したのだった。

「……四年のくのたまってのは、アレか? 頭の天辺で髪結ってて、簪さしてるあいつか」

「よく見ているのね、潮江くん。そうよ、その子」

「ありゃくの一の会計委員だ。実習に出るとは俺も聞いてた」

「そうね、そうだったわ」

らしくなく返答もそぞろである。

一同は顔を見合わせた。

黙ったまま相当量の酒をひとりで喰らっていた長次が、ぴくりと視線を巡らせた。

「どうした、長次」

「……客だ」

次の瞬間には全員がその客の気配を認めた。

ああ、ついにと、諦めたような空気が場を覆う。

の危惧は杞憂で済んではくれなかったのだ。

遣いはふたりのくのたまの少女で、先輩であるへと持ってきた知らせを言葉で説明する必要もないほど、

顔を目を真っ赤にしてぼろぼろと涙を流し、嗚咽をこぼし、肩を震わせていた。

が少女達の前に立つと、彼女らは耐えきれなくなったかのようにわっとに抱きついてわんわんと泣いた。

激しくしゃくり上げるのどが、明確な言葉をの耳に届けることを許さない。

は黙って、後輩達をやさしく抱きしめた。

その後ろ、部屋の中に取り残されたままの六人は、じっと見つめている以外にすべがなかった。

まだ四年生の少女が、授業の実習でいとも呆気なく──命を落としてしまった。

黙って後輩達の泣き続けるのを受け止めるから、六人はぴりぴりとした肌に痛い雰囲気を感じ取った。

どういう感情もほとんど外に表さないの、その背がこれ以上ないほど無言のうちに何かを語っていた。

怒りか、悲しみか。

誰も声をかけることができなかった。

長屋の別の部屋からも、騒ぎを聞きつけ顔を出す忍たまたちがいたが、

彼らもくのたまたちの様子をちらと見ただけでなんとなくその事情を悟っては、申し訳なさそうに部屋へ引き取った。

やがてが静かに口を開いた。

「戻ってきているのね」

後輩達が力弱く頷く。

「では、……顔を見てあげなくてはね」

まだ泣きじゃくる後輩達を先にくの一の屋敷へと帰し、は部屋の中へ向き直った。

「……悪い知らせになってしまったようよ。お楽しみのところ、水をさしてしまって悪いけれど」

「いや、こっちは構わないけど……大丈夫かい、

「ええ、大丈夫よ。覚悟くらいは、していたから。ありがとう、善法寺くん」

「作法委員と用具委員の手は必要だろう」

仙蔵が立ち上がり、留三郎もそれに続いた。

「……ええ、ありがとう」

きっと本来その役をつとめるべきである他のくの一たちも、

今はそれどころではないはずだからと、は素直に礼を言った。

「ごめんなさいね、二人、借りていくわ」

「……待て、

文次郎が止めた。

「役に立つ手は持たんが……俺も連れて行け」

がどうして、と問うようにわずかに眉をひそめた。

「お前の後輩だが、俺の委員会の後輩でもある。……頼む」

「……いいわ。山本先生もきっと、咎めはしないでしょう」

三人を引きつれ、三人を残し、はくの一の屋敷へと向かった。

本来は忍たまが簡単に立ち入ることが許されていない場所である。

装束や化粧用具を携えていなければ、この夜でも彼らは門前払いを食らったかもしれない。

例外的に通された部屋の奥の奥、薄暗がりが降りるそこに、布を被せられて横たえられたひとりの少女。

その身体にすでに血も体温も通っていないことは一目瞭然であった。

続き間で泣き続けるくのたまたちのそばを抜け、は横たわる少女のかたわらに跪いた。

「……よく帰ってきたこと」

労うように呟き、顔にかかる布をはずす。

青白く血の気の引いた顔が現れても、は眉ひとつ動かさなかった。

山本師範、くの一たちの見守る中で、は後輩に死化粧をほどこし始めた。

男衆は外、と素っ気なく追い払われ、着いてきた三人はとりあえず隣の部屋へ待機することになった。

ちらりと目をやる先に、顔色も変えずに黙々、後輩のさいごを彩ってやるの姿がある。

六年間を生き抜いたたったひとりのくの一であるは、同じ年のくの一をこれまでも何度もそうして葬ったのだろう。

思っては彼らはそれぞれなりに胸を痛めた。

「潮江くん。あなたの後輩でしょう。顔を見てあげて頂戴、委員長」

招かれて、文次郎は黙って立ち上がった。

のそばにずいと座る。

薄く化粧をされ、眠ったような顔にしか見えなかったが、

ころころとよく笑い、うるさいとときどき叱られてしょげ返っていたりした後輩は確実に息絶えている。

文次郎は黙って頭を垂れた。

「……呆気ないもんだ」

「そうね」

「なんの実習だ」

「暗殺よ。自分を囮にね」

「……そうか」

遠慮気味に一歩後ろへ座り込んだ留三郎と仙蔵も、神妙そうに黙り込んでいる。

くのたまたちのすすり泣きは、ずっと止まないままだった。

割れる寸前の風船のような張りつめた空気。

誰かがそこへ針の先を近づけている、そんな不穏な気配がどこからともなく襲い来た。

「……誰かしら」

山本師範が訝しげに顔を上げた。

やがて、大袈裟な足音が廊下を響いてやって来た。

誰もが黙っていたが、普段ならば文次郎が忍者たる者そのような大きな音を立てるとは何事かと怒鳴るところだろう。

息を切らし、涙目で、絶望に彩られたような顔をして、やってきたのは忍たまのひとりである。

制服は四年生のもの。

一同が囲む少女の姿を見て、まだ躊躇いがちだった絶望の色が色濃く彼へ宿ったのを、彼らは認めた。

「なんの用です、あなた」

「先生、数分ばかりの御容赦を」

山本師範をが止める。

「……この子が想いを寄せていたのが彼なのです。さいごです、ひと目ばかりでも、会わせてあげてくださいませ」

六年生三人が場所をあけてやり、恋仲だったらしい忍たまをそこへ通してやった。

彼は好いた少女の変わり果てた姿に、それでも取り乱しはすまいと唇を噛みしめ、

嗚咽を押し殺してただ黙って涙を流した。

場にいる誰もが、少なからず少女の死を悼んでいた。

どれほどの時間が経ったのかもわからないほどに、皆々ずっとそうしていた。

けれどいつまでも、ただ悲しんでばかりいるわけにはいかないものだ。

最初にその場を一歩破ったのは、だった。

「……こんなときに、こんなことを申し上げるべきではないかもしれませんが」

「……言ってご覧なさい」

山本師範に許しを得、は頷いて続けた。

「この子が手がけた実習……このままの状態で捨て置くわけには参りません。

 伺い知る分には、標的の男は己の敵を並みならぬ執拗さでもって一掃してきたとか。

 そんな男が、己に刺客を差し向けた相手が誰であるかを調べずに放っておくとは思えません」

一体なにを言い出すのかと、後輩のくの一たちは血相を変えた。

後輩の死を眼前に認めても、は涙ひとすじ流していないのである。

慕っているはずの先輩に血も涙も情け容赦もない面を見て、彼女らは絶句しているのであった。

「この子の実習の支度を手伝い、指導したのは私です。

 記憶が確かであるならば……この子が肌身離さず身につけていたはずの品が今この場に見当たりません。

 恐らく、相手方に遺留品として押収されていると思われますが、厄介なことに、

 その品からこの子の素性が割れる可能性は否定できません」

「……そこから忍術学園に、更に学園へ依頼を寄越してきた相手にと矛先が移るというわけか……」

文次郎がぼそりと口を挟み、はそれに頷いて見せた。

「標的は一度この子に狙われたことで更なる警戒を重ねていることでしょう。

 そんな場にもう一度赴き任務を遂行するのは途方もない困難です、

 けれど先生、お願いがございます、私にその遺留品の回収だけでも、お命じいただけはしませんか」

「先輩……! こんなときになんてことを仰るんですか!」

ひどい、と後輩のくのたまたちが泣きわめいたが、は意に介さぬ様子で山本師範をひたと見つめた。

「それが、今必要なことのようね。あなたが? 

「はい」

後輩達は先生まで、といきり立つが、二人の表情の厳しさにやがては声を失った。

「策はあるのね?」

「策と呼べるほどのものでありますかどうか」

「……良いでしょう。あなたがわざわざ言うからにはよほどの考えがあってのこと。

 くれぐれも無理無茶を重ねることはしないようにね」

「心得ております。……支度が済み次第、明日にも発つことにいたします」

は静かに言うなりスッと立ち上がった。

少々慌てて、文次郎と仙蔵、留三郎が続く。

振り返りもせずさっさと場を辞すを少し心配しながら、

留三郎は最後に部屋を出るときにチラと残った人々を振り返った。

後輩達が口々に、の冷たさを悪く言う声が耳に入る。

想い人を悪し様に言われて気分のいい男などいるわけがない。

留三郎は何か渋いものを飲み込んだような気分になった。

たったひとり、死んだくのたまと恋仲だったという四年生の少年は、

何か縋るような目での行った先へ視線を泳がせているのであった。



「策とやらは?」

あとを追いながら、仙蔵がに問いかけた。

はまだ振り返らず、早足で歩きながら答える。

「口から出任せよ──ああでも言わないと許可が下りないから。

 相手は女遊びが好きな男なのよ。色仕掛けで落とすしかないわ」

先程までの宴会会場である善法寺伊作の部屋へ四人はまた戻ってきた。

落ち着かぬ様子で帰りを待っていた他の三人は、がなにやら勢いづいてやってきたのに不可思議そうに目を瞠る。

小平太がこそっとなにがあったのさとくの一教室へついていった三人に問うたが、

三人とてはっきりと答えられたものではない。

は構わずに、仙蔵に話を振った。

「立花くん、紅持っていない」

「紅? なんで私が」

「私が持っているのだと色が派手すぎるの、少し淡い色が良いわ。

 最悪首実検用の化粧道具でも構わないから貸して頂戴」

「……委員長が委員会の備品をちょろまかせと」

「そのとおりよ」

スパッと言い切られ、しかし仙蔵は渋々わかったと頷いた。

厳しい目でが次に向き直ったのは伊作である。

「暗殺用に使える毒薬を二・三調達してほしいの、大至急よ。

 量は多くなくて構わないから即効性があって効き目のきついものをお願い」

「あ、ああ、わかった」

伊作は最初から勢いに負けて反論をする余裕すらもなかった。

医務室へ向かうべくすぐに立ち上がり、仙蔵と一緒に慌ただしく部屋を出ていく。

下手に声を立てることができない彼らに、は静かに語りかけた。

「いつか、以前、あったわね、援護してもらったことが」

何の話だろうと彼らがそれぞれなりに思い返すところに、は返事を待たずに先を続けた。

「相手の男は女に目がないもので、どうにか近づくことはできるかもしれないけれど、

 策もない急ごしらえの状態ではこの任務の成功率は低いと言わざるを得ないわ。

 あなた達もそれぞれに忙しいことを承知の上でわがままを言うけれど、

 もし──あなた達の気が許すなら、また援護についてほしいの」

無理ならいいわとは言い、今度は言葉を切った。

「つーかちゃん、私ら事情を聞かされてないし」

小平太がわざと軽口で言った。

の話題の核心が重苦しいことには、事情を知らなくても彼らも気付いてはいる。

は少し間をおいてから言った。

「死んだ後輩がし損じた任務を完遂させるのよ。

 相手は狙われていることにすでに気付いているから少し厄介だわ」

「なるほどぉ。それってさぁ。敵討ち?」

が不機嫌そうにぴくりと反応した。

小平太はをわざと煽るように、そのまま続ける。

「限りなくプロに近いちゃんがわからないはずがないね。私情は御法度ってやつ」

「わかっているわ」

「それでも行くんだ? 聞く限りでは危険性は高いと思うな。承知の上で、引く気はないんだ?」

「もちろんよ」

はいつもどおりの口調でそう言ったが、留三郎だけは微妙なその変化に辛うじて気が付いた。

煽られまいと、がきつく己を抑えているのがわかる。

「私はね、七松くん、逆のつもりでいるのよ。

 敵討ちがしたいために、後輩の任務を引き継いだわけではないの。

 完遂させなければ危険という任務のなかに、いろいろな事情が混じってしまっているのよ。

 くの一教室の下級生には難度が高い、だから私がやろうというの」

「同じだと思うな」

「自制がきかずに感情が前面に出てしまうのならね」

「できんの?」

小平太は侮るような視線をに向けた。

それが小平太一流の挑発だろうことを悟って、誰も何も口を挟もうとしない。

「見届けにくればいいわ」

はまっすぐに小平太を見据え、やや低い声で言った。

しばし二人はにらみ合ったが、小平太が口元でふっと笑って決着はついた。

「面白ぇ。いいよ、私は行くよ。一流のくの一のわざ、見せてみろよ」

「お望みなら」

と、普段は明るい小平太とのあいだで散った辛辣な火花に、見ていた彼らが肝を冷やした。

伊作と仙蔵がそれぞれの頼みのものを持って部屋に戻って来、

六人全員がまた任務の援護につくことで話はまとまった。

出立に備えて今日は部屋に戻ると言ったを途中まで送りに、留三郎は一緒に部屋を出た。

は黙ったまま、彼よりも一歩先を歩いた。

その表情は留三郎からはまったく見えなかったが、

からずっと発せられているぴりぴりした雰囲気が、ずっと彼の肌を刺し続けていた。

他の五人も、先程までは居心地の悪い思いをしていただろう。

くの一教室との敷地の境までやって来ると、は振り返り、ありがとうと呟いた。

一見のところは普段と寸分も変わらない顔だ。

けれど、それが留三郎には無理をしている姿に見えた。

「……。大丈夫か」

思わず問うと、は歪みそうになった表情を無理矢理、ぎゅっと噛みしめて耐えようとした。

やっぱりか、と彼は息をついた。

なぜこいつはいつもこんなにも、自分に厳しくあろうとするのだろう。

その細い足で支えて立っているには、苦しいほどの重荷もあるだろうに。

本当なら彼は、に耐えるなと言ってやりたかった。

けれど今は少し事情が違う。

翌朝に任務を控えたその夜、感情が爆発するような真似をさせることは、

下手をすれば必要最低限の緊張の糸までも切ることになりかねない。

それが最悪の場合は任務の失敗、転じての身の危険に繋がるのは明らかである。

いくら自分たち六人、自惚れではなく最上級生の中でも精鋭と言っていい才能の集まりが援護につくとはいっても、

万が一の可能性は常に念頭に置いておかねばならないし、絶対という言葉を信じてもいけない。

心を鬼にする、などという言葉が彼の脳裏にぼんやり浮かび、自分はまだまだのんきなものだと彼は自嘲する。

せめてもと、留三郎は手を伸ばして恋人の髪を撫で、黙ったままその頭を抱き寄せた。

「……安心しろよ。見てるからな」

はその言葉を噛みしめるように目を閉じ、かすかにうんと頷いた。

それを合図に、留三郎はの顔を覗き込み、そっと唇を合わせた。

「ごめんなさいね」

少し離れると、は苦笑いで囁いた。

「任務のあいだは、許してね。他の男に愛嬌を振りまくことを」

「……その程度で妬くほど見境なくはない」

は困ったように笑った。

そうだけど、それだけじゃないのよね、そう言いたげに。

「……だって、甘え方は、あなたに習ったんですもの」

一瞬虚をつかれて言葉に詰まった留三郎に、今度はが一方的に口づけて、ごめんなさいねと繰り返した。




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