部屋の中は何ともいたたまれない空気に満ち満ちていた。
ちゃっかりと上がり込んだ悪友たち五人のおかげで人口密度も限りなく高い。
ソファにもクッションにも余すところなく人が座り、
俺ととはいま全員の視線の先に並んで立たされている、まるで尋問だ。
まあ、黙っていたことは悪かったと思ってはいるが。
相手が噂のだったってとこもきっと問題なのだ。
奴らはきっと俺を問いただしたいのだろう。
なんでよりにもよって。
文次郎がを気にかけていたことを知っていたのに。
と文次郎、本人たちさえいなければ、俺は今頃袋叩きだったかもしれない。
「えーと……」
どうしていいのかわからずに、は俺と奴らとのあいだに忙しなく視線を行き来させている。
この空気の中にいなければならないのも、まあ……俺のせいだろう。
つくづくすまん。
とりあえず間をもってくれようとでもいうのか、口を開いたのはお人好しの伊作だ。
「……さんなんだよね? ピアノ専攻の?」
「はい。そー、です」
こわごわと問いかけた伊作に対して、もどこかこわごわと返す。
とりあえずさぐりさぐり様子見ってとこか。
「……留と付き合ってるんですか」
「え……」
口調はこわごわだが質問はえらくストレートだ、おいちょっと待て様子見じゃねえのか。
は一瞬で茹で上がったように真っ赤になった。
「別にそういうことではたぶんないような……」
言葉の最後のほうはもう消え入りそうになっている。
肯定的なセリフが出てこなかったことにもそうがっかりはしなかった。
約束がないとか、告白をすっ飛ばしたとかというのは、こういうことなのだ。
何の保証もない、これまでと変わりのない距離と関係、とりあえず名目だけは。
改めて付き合ってくれとか言っといたほうがよさそうだ……この場をどうにか切り抜けたら。
「付き合ってもない男の部屋に朝っぱらからいるわけないだろー?」
遠慮なく小平太が聞いた。
小平太はどうにかしての口から明確で具体的な答えを引きずり出したいらしい。
いい加減にして欲しい、と、言いはしないがため息をついたら、今度は矛先が俺に向いた。
「留も留だぞ、なんで言わないかなあ」
「や、言うつもりだったけど……タイミングってもんがあるだろうが」
「知らねえよ」
小平太には理論とか常識とかは通じない。
不満だから不満、気に食わないから気に食わない、そういう奴だ。
頭痛がしてきた。
まったく納得していない様子で小平太は唇をとがらせる。
今度は呆れ顔で仙蔵が口を挟んだ。
「……まあ、なんだ……我々もいつもの調子で勝手に押しかけただけであって……
別に留三郎と練習の約束があったわけでもなし。
邪魔者はこちらのほうだ、一応、辞そうか? 問いつめるのは後日に回してやってもいいぞ」
「そりゃご親切なこったな……」
「留三郎。お前に非がないとは言わせんぞ」
仙蔵の言葉はひどく鋭利だった。
仙蔵にとって、同じ楽器を持った者同士という意味で親しいのは俺のことだろうが、
組んで演奏してきた者同士ということなら親しいのは何と言っても文次郎なのだ。
演奏会でも研究会でもコンクールでも、こいつらは互いを必要としてやってきた。
他の奴とのあいだにある絆とは違うものをこいつらが共有していることは、外から見ていれば簡単にわかる。
文次郎と、そして俺とも親しく近しいはずの立ち位置が、仙蔵にはいまきっと歯がゆいのだろう。
気付けなかったこととか、見抜けなかったこととか、
物事を好転させるため・悪化させないために口を挟めなかったことが、いまになって悔やまれているのだ。
俺の演奏が何かにかぶれたと指摘さえ寄越したというのに、その本当の正体には気付けなかった。
なんと繊細な、友人想いの男だろう。
それも、感情で俺と文次郎を比較して文次郎を取ったわけでは決してないはずだ。
公平な目で見て、やっぱり俺には責められるべきところがあると、仙蔵はそう言いたいのだ。
奴の言い分は、たぶん、正しい。
言葉が途切れ、部屋の中はしん、と静まり返ってしまった。
ついたままのテレビが、最小音量で雑音を流している。
昼のこの時間おなじみの、十分間の料理番組。
あんまりいたたまれなくて、俺は耳元をくすぐっていくオープニングの軽快な音楽に逃避するように意識を寄せた。
そういえば最近、同じ曲をビールのCMでも聞いたことがあるような。
誰の曲だっけか。
確か、『おもちゃの兵隊の観兵式』。
同名のオペレッタのテーマ曲で、
夢の中でおもちゃの兵隊が行進している様子と朝になっておもちゃ箱に慌てて帰る様子が表現された、
ちょっとメルヘンなストーリーが込められている。
“メルヘン”、そうだ、イエッセルだ、ドイツの作曲家の。
小学校のときにどっかで勉強した気がする、ヴァイオリンで演ったんだっけか?
ストーリーにしても料理番組のオープニングにしても、
この気まずい雰囲気にはあまりにも似合わなさすぎてちょっとシュールにすら思えてきた。
しかしまあ、日本人の大半はこの曲を聞いてもおもちゃの兵隊の行進なんか想像しないだろう。
おもちゃはおもちゃでも兵隊ではなく、番組マスコットのすっぱだかの人形を思い浮かべる人のほうが多そうだ。
その場に立たされたままですっかり蚊帳の外に意識を飛ばしていた俺を、おずおずとが見上げてくる。
「食満くん……でも、私ほんとにもう帰るよ。昨日も楽譜見て帰るつもりだったし」
「あ、そか」
それだけの、たった三文字の俺の発声には、奴らにもありありとわかるほどがっかり感がこもっていたらしい。
何か複雑そうに、物言いたそうに、肩をすくめたり視線を見交わしたり。
けれど不自然なほど、誰も少しも、文次郎を見ようとしない。
いいよ、僕らが帰るよと伊作が一応遠慮するようなことを言って腰を上げたが、
は本当に楽譜に用事があるらしい。
さっさと荷物をまとめて、お邪魔しましたと奴らに頭を下げる。
つられたように皆が会釈をする中で、文次郎だけはのほうを見やりもしない。
あいつ今、何考えて、どんな気分でいるんだろう。
文次郎に対して、に関する点でだけは俺は優越感を得られるはずだった。
けれどなんだ、俺は今、文次郎を心配していた。
俺が自分で奴の想い人を奪ってしまったのだというのに、
そのせいで文次郎が傷ついているのではないかと心配している。
頭の中に描いてみたシミュレーションと現実とは、こんなにも落差がある。
劣等感を抱いていようが、ライバル視していようが、文次郎も大事な仲間で、友人のひとりだ。
のことは譲れない、譲りたくない。
けれど、親しい友人が失恋して気持ちが沈んでいるとしたならそいつを案じたくもなる、それも嘘ではなかった。
真逆の言動と思考は、どれもこれも入り交じって俺の本音に違いなかった。
きっと他人に言わせれば調子のよい主張ばかりに聞こえるんだろう。
どうしていいかわからなくなる。
を駅まで送ってくるから、部屋の中は好きにしていていいからと言い置いて、
俺はの荷物を預かりながら一緒に部屋を出た。
エレベータを待つあいだに、やっとぽつぽつと会話が戻る。
「……びっくりした」
「心底すまん……」
「ううん、……食満くん、秘密にしてたんだ」
私のこと。
責めるような口調ではなかったが、何か申し訳なくて俺はまたすまんと謝った。
「……言い出しにくくてな……あの中で恋バナっつーの? そういうの、出たことほとんどなくて」
「うん、私もそうかも。友達には好きな人できたり、彼氏できたり、そういうこともあったんだけど」
まさに音楽だけを恋人に、俺ももいままでずっと来てしまったのだ。
つまりは似たもの同士ということなのかもしれない。
アパートを出ると、太陽はもうすでにかなり高い位置にあった。
今日も暑い。
「暑いね」
「んー、夏だな……」
寒いねと言ったら寒いねと答えてくれる人がいて、だからそれがあたたかいんだとか、そんな言葉があったっけ。
現状は“寒い”じゃなくて“暑い”だが、それしきのことを言い合うだけで喜べる相手がいるというのは、
確かにあたたかくて嬉しい感じがする。
初めて感じるような、言い表しがたい気持ちだ。
嬉しいの一言で的確に言えたような気はしない。
はふいに、楽譜の話題を口にした。
「夏休み前の試験のね、曲を絞り込んだから、その楽譜を見に行きたくて」
「そっか」
ピアノ専攻だけではなく、ヴァイオリンにもチェロにも打楽器にも、作曲専攻にも同じ夏休み前の試験というやつがある。
これをクリアできないと補習の名のもとに夏休みが削られてしまうのだ。
研修や音楽祭・コンクールへの参加、
短期留学まで予定している奴もいるのでみんなそれなりに必死に試験対策を練る。
俺はとりあえず計画をぼんやり立ててみた段階だ。
目標に対していつも最後に焦る羽目になるところは、子どもの頃から変わらない。
八センチヒールの靴でこつこつ音を立てながら、の足取りは御機嫌そうだ。
できたばかりの彼氏(仮、念のため)の存在より、まだ見ぬ真新しい楽譜のほうに心奪われている。
昨夜の今朝でまだ舞い上がっているせいなのか、俺はのそういうところも可愛くて好きだ、と思う。
音楽の話になると途端に目の色が変わるようなところ。
瞳の奥に炎でも燃えているのが見えるような気がするほどだ。
中学生かと思うほど幼く見えるところも、低身長をカバーしたくてヒールの高い靴ばかり履いていることも、
それをからかうと怒るところも、みんな可愛い。
これは早くも重症だ、と思う。
そのうち問いつめるようになってしまったりするんだろうか。
ピアノと俺と、お前はどっちが大切なんだ。とか。
あり得ない話ではなさそうで恐くなる。
自分が問われれば、簡単には答えられないくせに。
「試験が終わって、夏休み、楽しみだな」
うきうきとした口調でがそう言った。
それだけの言葉に、今年の夏休みは食満くんがいるから楽しみだな、という意味が聞こえてしまう。
ピアノ関係のスケジュールがかなりの日数を占めているだろうに、遊ぶ体力があるんだろうか。
そう思ってみるが、たぶん、大した問題じゃないだろう。
どうにかして時間を作って、会えるだけ会う努力を絶対に惜しまないに違いない。
は俺を振り返って、照れくさそうに笑った。
「ね。楽しみだね」
「うん」
笑い返そうとする、俺の頬にもふつふつと熱がのぼる。
今まで何気なく繰り返してきた、単純に笑ったり話したりなんてことが、こんなにもくすぐったいものだとは。
腕に食い込む荷物の重さもほとんど忘れたようになって、
俺は大股で数歩先のに追いつくと、またかなりかがみ込んで唇をあわせた。
昨夜よりは八センチ分楽だったかもしれない。
人の往来の途切れた住宅街の、標識とカーブミラーの真下。
は頬を赤くしながら、逃げないで受け入れてくれた。
先にやることやっちゃって、順番があべこべじゃねえかと思ったけど、こんなもんなのかもしれない、案外。
ああたぶんきっと、俺今めちゃくちゃ幸せな気分だ。
そう思ったときだった。
「ちゅーした! ちゅーしたあいつら!!」
小平太の叫び声がはるか背後彼方からあまりにも唐突に聞こえてきて、俺もも跳ね上がってしまった。
人の往来は確かになかったがマズイ、俺の部屋のベランダから見える位置だ。
「……っのやろ、小平太……」
小声で悪態をついて、俺は空いた手での手を引いて急ぎ足で角を曲がった。
しばらく歩いて、ベランダからカンペキに隠れる位置にやってきてやっと安堵の息をつく。
息と一緒になんか魂っぽいものが抜けていったような気さえした。
「油断も隙もねー……」
「今のは私たちも悪いよきっと……」
はくすくす笑いながらそう言った。
ヒヤリとさせられたが、心臓は今もばくばく跳ねてはいるが。
はあんまり気にしてないふうで笑ってるから、じゃあまあ、いいか。
そんな気がしてしまった。
俺の頭の中のいろんな判断とか考えとか、今全部を基準に回ってる。
これもしかして、結構危ういんじゃねえかな。
たった一晩で、知り合ってからだって数か月ってとこで、こんなに一気にに傾いている自分がいる。
どうしたらこいつが笑ってくれて、喜んでくれるか、いつの間にか必死で考えている。
何を言ったらいいか、どんなふうに触れたらいいか、そんなことを延々と。
ときどき少しいかがわしいような、
淫らな空想にまで転げそうになるのには急ブレーキかけて堪えてみようとしたりして。
頭の中でだけ好き勝手するのはなんだかに悪い気がするのだ。
今は、大事にするってわかってもらえたらきっと、
奥深くまで触れることも一緒くたになることも許してもらえると思うのに。
だってたぶん、そばにいたいと思ってくれているんだろうに。
つないだままの指先が少し汗ばんでいる。
暑い、なにせ暑いんだけど、離れるのはいやだった。
駅までの道のりってこんなに短かっただろうか。
踏切がカンカン鳴ってる音がもう聞こえている。
悪あがきのように俺はに問いかけた。
「今日はこのあとは? 楽譜見て? それから?」
「帰って、……練習かなあ」
やることの量は半端なくあるはずのだが、どれもこれもピアノ関係のはずだ。
そのピアノずくめのスケジュールの間に、俺の入る隙はどれくらいあるだろう。
少しくらいは譲ってくれるだろうなんて、俺はそんな勝手な期待をしている、けど。
ピアノと俺と、どっちが大事なんだ。
ずるいような卑怯なような気もする、究極の選択だ。
だけどはたぶん、俺じゃなくてピアノを取るだろう。
たぶん。たぶんだけど。
そういう奴なんだと思う。
そういう星のもとに生まれてきてしまった人間なんだと思う。
他のものに譲るってことをしない代わりに、つかみ取ることのできるものが大きい、そういう奴。
でも、人間が生きて死んでくまでのあいだにやってくるできごとって、それだけじゃないはずだろう。
譲ることだって必要だし、誰か好きな人ができて、一緒に生きていこうって思えたりとか、することだってあるだろう。
そうじゃなかったら、いくら才能豊かな芸術家にのし上がることができても……寂しいじゃねえか。
まだ学生だ、まだ若いんだ、そう言っていろいろ許してもらえる今だから、うつつを抜かしていてもいいと思う。
おもに俺に。
て、いうのは、自惚れかな。
「食満くんは、帰ったらお友達たちに質問責めかな……」
「あー……」
そうだった。
それも、が思っているほど呑気な質問責めじゃあないはずだ。
ただ親しい友人の恋愛話を根ほり葉ほりでは済まない。
文次郎本人がいる前で露骨な話にはたぶんならないだろうが、それでも奴らは俺を問いただすだろう。
それで、たぶん、やっぱ……俺には責められるべきところがある。
だってさっき感じた文次郎への心配ってのはそういうことじゃないのか。
罪悪感があるから、俺が奴に対して後ろめたいことをしたって心底では思っているから、
だから文次郎が傷ついたんじゃないかと心配なんかしている。
どうしても譲れないにしても、かげに隠れてこそこそしてなんているべきじゃなかった。
わかってた、本当は。
正々堂々なんて言ってられないほど、俺はより確実にを自分のものにしてしまいたかったんだ。
もしかしたら負けるかもしれないから。
正面きって勝負したら、は文次郎を選ぶかもしれないと思ったからだ。
「食満くん。もういいよ、駅すぐそこだし、お友達待たせたら悪いよ」
「あ、……うん、大丈夫」
改札の前まで、電車が来るまで。
悪いよと言いながらもは俺の申し出を拒否しなかった。
やり方はちょっと姑息だったかもしれないが、今はは俺の彼女だ。
一緒にいたいと、も思ってくれている。
わざわざ頭の中でそう強く念じてみて、俺ははたと気がついた。
告白も約束もまだだったのだ。
「あのさ」
「ん?」
「……えーと」
参ったぞ、すごく今更な感じだ。
は不思議そうに俺を見上げている。
駅前の横断歩道、信号は赤。
ゴーサインはもうじきに出る。
は口元だけでいびつに笑った。
「……顔がまっかだよ、食満くん」
「う……」
言葉に詰まった俺を見て、はまた嬉しそうに笑う。
特別なことなんて何もないのに嬉しくて顔が勝手に笑ってしまう。
こんな胸焼けのしそうな甘ったるいことを、
彼氏と彼女なんて関係になった奴らは当たり前みたいにやらかすもんなのか。
は小声で、背伸びしても到底俺の耳には届かないが、
「なんかえっちなこと考えてる?」
囁いた、おい、冗談。
あんまりすぎて言い返す言葉が出なかった。
頭を抱える俺の片腕に、は楽しそうに絡まりついてきた。
身長差をなかったことにしてしまえば、どう見ても彼氏の腕に甘えて抱きつく彼女の図。
もう、告白とかいらないんじゃね、これ?
そう思ったけどちょっと不安な気がして。
一回だけでいいから言葉にしておいたほうが、なんか安心できる気がして。
腕に抱きついてにこにこ笑っているを見下ろしてみる。
恐る恐る聞いた、ああ、声、震えないでくれよ。
「あのさ……カレシカノジョになれたって思ってい? これ……」
はきょとんとした顔で俺を見上げた。
見下ろすのと見上げるのと、ものすごい至近距離で目が合って、俺は反射的にそっぽを向いてしまった。
うう、慣れねえ、一晩くらいじゃ。
いや、その昨夜真っ最中は、結構平気だったと思ったんだけど……
もうきっと俺は耳まで真っ赤だろう、その赤くなってるはずの耳たぶあたりに、
「……そうだよね?」
は躊躇いがちに返事をくれた。
聞いたらいきなりどわっと安心できて、胸の内になにかあたたかいものがじわじわ広がっていく心地がした。
肩越しにまたに視線を戻すと、も赤くなった顔で、だよね、とでも言いたげに笑ってくれた。
「……いい?」
「いいよね?」
「うん、……じゃあ」
「うん」
好きのすの字もない。
告白じゃなくて確認だ、これじゃあ。
それでももう俺は精一杯で、それ以上なにを言う気にもなれなかった。
好きな人ができた。
その人が俺とカレシカノジョの関係でいいと言ってくれた。
なんかもう、大らかすぎる気持ちだ。
正月の朝みたいな清々しい気分で、俺は信号が青になったのを見た。
最初の一歩。
だからどうってこともないけど、眩しすぎるこれからの毎日毎時に向かっての最初の一歩。
漠然と俺は想像した。
さっきの究極の選択の続きだ。
“ヴァイオリンと私と、どっちが大事、食満くん?”
幸せすぎてもう泣きそうな俺の背筋を、薄ら寒いものが舐めていった。
もしかしたら、きっと、たぶん、おそらく……
俺はヴァイオリンではなくての手を取ろうとする。
……かも、しれない。
(人目を盗んで夜中の行進、凱歌ひとつも歌えやしねえ)
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