雪月花に結ぶ  冬休み・前編


長期休暇までのあいだに、文次郎の元へは何度かから文が届いた。

元気そうにしているらしいことを、ほかでもないの手跡から知るのは安心感が違ってくるようである。

安心したところで満足し、ろくに返事を返さなかったことをは不満に思ったらしく、

休みまでに一度は返信を寄越せと静かな文面ではあったが訴えてきた。

同じ文の追伸に、結局あの金魚を“もんじ”と呼んでいるらしいことが書かれていたが、

恐らくそれが文次郎に対する嫌がらせだと思うと、返事のないことには相当おかんむりである。

大人しい性格になったと思っていたが、大人しくなったというより少々大人びたというほうがいいのだろう。

御転婆も蓮っ葉も負けず嫌いもそのままであるが、

それを伝える手段に“さりげなく”“遠回し”という高等技術を使うようになった。

文面からの性格、表情、その仕草を思い出し、文次郎はふっと口元で笑った。

学園周囲では先日初雪が降った。

小平太が喜んで長屋の庭に出て巨大な雪だるまを作り上げ、更にその雪だるまの腹を掘ってかまくらをこしらえた。

皆でみかんを持ち込んで代わる代わる中へ入り、今年最初の雪を満喫したが、

その後また気温が上がったようで今や雪だるまは見るかげもない。

も雪だるまやらかまくらやら、見れば喜ぶのだろうが、寒さは足に堪えるはずだ。

具合を悪くしていなければいいがとなんとなく心配もしながら、

文次郎は年末までの日にちを数え続けていた。

六年生のあいだでは就職活動本番と言える時期を迎えている。

仲間内ではろ組二人がいち早く内定を決めそうな気配であった。

は組の二人には忍として生きる以外の大きな選択肢があるようで、それぞれなりに迷っている最中らしい。

文次郎と仙蔵、い組の二人も迷いのさなかである。

い組のほかの級友には数人内定を勝ち取ったものがいるが、それが拍車になっているような気もすれば、

なぜこうも早い決断ができるのだろうかと思ったり、思いきることのできる潔さをを羨ましく思ったりもした。

い組でも文次郎と仙蔵は真っ先に就職先が決まるものと皆が思っていたようで、

意外に難航しているのを見ると不思議な顔をされてしまう。

仙蔵が迷っているのも珍しい姿であるが、彼が自分から事情を口にしようとはしないので、

文次郎はただ黙ってそれなりの距離をとり、様子を伺うことに決めていた。

試験にパスするのもスカウトがくるのも仙蔵には珍しいことではないから、

最終的にあぶれることはないだろうという安心感は文次郎の内心にあった。

だから、彼はとりあえず、自分の迷いのほうに集中することにした。

ありがたいことに、いくつか道を選べる状況に文次郎はあった。

条件だの、環境だの、仕事の内容だのと、そのあたりの差で勤める先を選び定めるのみである。

あまり待たせるとほかにかすめ取られる可能性もあり、そうそう時間をかけることはできない。

学園という限られた空間の中ではそれなりの実力者であろうとも、

一歩外に出たときにそれがどこまで通用するかというと、最低限でしかないのである。

授業のカリキュラムはさておいても、学園という場所はとりあえず一定レベルまでは安全で、守られている。

すでに世に出た百戦錬磨との経験値の差は歴然であるし、それを認めないほど文次郎は浅はかではない。

いつまでも決心を待ってもらえるほどの優れた人材では己はなく、かわりはいくらでもいるのである。

急がなければと迷い迷うと、更に深みにはまってしまう。

思考の悪循環を断ち切るために、文次郎はもうひとつ、己を待っている未来について考えた。

を妻として娶るということ。

文次郎はいまだに、責任や償いといった感情を捨てきることができない。

しかし、それを差し引いてもを嫁にほしいと思うこと、好きだということ、

それがやっとのことで重みを帯びてくれてきたのを文次郎は秋休みに一気に自覚した。

理性の上では償いではない、感情だと何度も自分に言い聞かせてきてはいたが、

を愛おしいと思うようになったのは秋休み以降いきなりに、だった。

文が届くのを待ち遠しく思ったり、その文面に頬が緩むのを抑えきれなかったり、

年末年始に帰宅してに会うときのことまで想像したりと、文次郎の内心はわりとのことにも忙しい。

大体一定期間をおいてからは文が届けられていたが、今日届いた文は少し待ち期間が長かった。

どうやら風邪を引いていたらしいことが文面から知れる。

心配もあり、文を待つあいだのもどかしい気持ちをもしかするとも持っているのかもしれないと

思い当たったこともあり、文次郎は珍しく筆を執り、頭を振り振り返信をしたためた。

──学園はもう冬休み間近だが、数日ばかりこちらに残る。

──晦日には間に合うだろう。

──風邪に気をつけろといったのはお前のほうではなかったか。

──安静にしているように。

──秋に送ってきた南瓜の菓子は、祭に連れていった悪友達が誉めていた。

──礼をいうようにとのことだ。

──返事ができずにすまなかった。

いろいろと行を連ねた上、文次郎はこれでいいかと一度筆を置いたが、

ややしばらくして慌てて筆を執り直し、付け加えた。

──金魚は改名するように。

よし、と息をつき、文次郎はやっとへの初めての返信を書き上げた。

それでなくても、幼なじみのあいだで文をやりとりすることなど一度もなかったのである。

許嫁同士と呼べる今ならば、もう少し色めき立った内容の文を送ってもいいところだろうに、

気持ちはやっと追いついてきても今度は態度で示せない。

いまだに、祭の終わったあの夜、と口付けを交わしたことを思い出すにつけ、

文次郎はいきなり火がついたように赤くなり、こんなんじゃいかんと鍛錬に飛び出そうとしたりするのである。

早く会いたいと、気持ちはに傾いていたが、その想いを筆先に乗せることはできなかった。

精一杯の想いで、なるべく急いで帰るつもりだと手紙を結ぶ。

この手紙がの手元に届けられた頃、文次郎が学園を出発することになるだろう。

とのあいだに今ある距離と時間差を思い、文次郎はじっとその紙面を見つめた。



年末が近づくと、悪友達もちらほらと荷をまとめて帰省の支度を始めた。

少々珍しく思われるほどの長い時間を雪はひたすら降り続け、あたりの土も草も木々も白で埋め尽くしていった。

聞こえる音のないひと気の失せた学園でひとり、雪の降る中にただ佇んでいると、

ただ自然のなせるその光景がどうしようもなく壮大で荘厳に見えて、心許ない思いに駆られる。

肌を刺す寒さが思い起こさせるのは、胸の奥を締めつけるような人恋しさであった。

すぐにも帰ろうと、文次郎はその日は早々に鍛錬を切り上げ、翌早朝にはすっかり身支度を終えて学園を発った。

町までは雪の中であろうとそう苦にもならない距離と思っていたが、

此度は雪が深すぎて、慣れた道のはずがずいぶん時間を費やす羽目になった。

これまで立ち寄りもしなかった茶屋に雪を避けるように寄り、様子を見ながら道のりを少しずつ縮めていく。

まる一日近くをかけての帰郷は、文次郎の内心に焦りをつのらせるばかりであった。

会いたい人があるというのに。

純白の雪がそうさせるのか、文次郎は照れもなく己を誤魔化すこともなく、

素直にそう思ってはの姿を想像した。

さすがに風邪はよくなった頃合いだろう。

足の具合はどうだろうか。

秋休みからの日々、手紙で近況を知らせてくれてはいたものの、何事もなく過ぎただろうか。

の性格を思えば、なにか嫌なことやトラブルが起きることがあっても、

わざわざそれを手紙に書いて文次郎に心配をかけるようなことはしようと考えないだろう。

夏休みにあったような、心ない悪口に傷つけられるようなことがあったとしても、

文次郎の知らない場所で起きたことなら知らぬままにしておこうとするに違いなかった。

足の怪我のことで文次郎が自分を責めようとするのを、自身はあまりよく思っていないのである。

一緒にいるだけで文次郎が自責の念にばかり迫られるというのなら、

夫婦になるのはやめたほうがいいと、は秋休みの祭礼のときに文次郎に告げていた。

けれどその夜に、二人のあいだの関係は明らかな様変わりを見せた。

距離をつくり、どこかぎこちなさや遠慮を作り出していた隔たりが、はじけて消えてしまった。

やっと感情だけでお互いを見ることができたのではないか。

そう思えば、少しずつ夫婦になるべくそれらしい関係に馴染んできたことは望ましくは思えたものの、

もしやすると町に帰ったとてまともに合わせる顔などないのではないかとも考える。

自宅へ戻るより先に立ち寄るはずの園村屋で、に会ったらまずなんと声をかければいいのか。

手紙の返信をしなかった恨み言など向けられるだろうか。

なにを言われても喜んでしまいそうな気がして、文次郎はぎゅっと気を引き締め、

そんな失態ばかりは晒してなるかと肝に銘じた。

夏には涼しげだった園村屋の藍色ののれんは、この季節には少々冷たく寒くも見える。

色の効果とは侮れぬもので、冬になるとどうも客足が鈍くなりがちであると、

現園村屋の当主であるの両親が愚痴ていたのを聞いたこともある。

文次郎にとっては懐かしい色であるし、ここをくぐればがいるのだという目印でもある。

藍ののれんは待ちわびた終着であった。

ざくざくと雪をかきわけ、文次郎はやっとの思いで園村屋へ辿り着いた。

笠に肩にと積もった雪を払い落としていると、中に声をかける前に戸口が開けられ、

彼がこの一日焦がれてやまなかったひとの姿が目の前に現れた。

「文次郎! 今日帰ってきたの」

ひどい雪ね、早く入ってとはとりあえず文次郎の手を引き、店の中へと引き入れた。

「冷たい手! 中で火にあたっていって」

「……ああ」

あまり唐突に、またあまり自然に再会が訪れ、文次郎はかえって面食らっていた。

は文次郎の内心の戸惑いにはまったく気付かず、文次郎の肩に残った雪をその細い指で払った。

「六年生って、最上級生なんでしょう。

 おやすみに入っても自分でいろいろやっていて、忙しいのね。

 お友達は? みんな元気にしている?」

「ああ、よろしくと 言ってた」

「そう」

「お前」

ずっと文次郎の身体中の雪を払い続けていた、のその指を彼は唐突に掴んだ。

がはっとしたように顔を上げた。

再会して数分、初めてまともに視線が絡む。

「……お前が冷える。もういいぞ」

の頬が薄赤く色づいたように文次郎には見えた。

しばらく二人はそのままぽかんと見つめあっていたが、やがてが気まずそうに目をそらし、俯いた。

「……お茶をいれるわ、中、入って」

「ああ、すまん」

答えて、文次郎は掴んだままだったの指先を離した。

は逃げるようにぱっとその手を引き取り、くるりと文次郎に背を向けた。

いつもどおりに振る舞えるかと思ったが、のほうもそれなりに文次郎を意識をしているらしい。

この夏・秋も足を踏み入れなかったの自室に文次郎は座り込んだ。

は茶を用意するのに部屋を出ており、そこには文次郎と、器の中に泳ぐ赤い金魚しかいない。

文次郎はじっとその金魚を見つめた。

祭のときににとってやった金魚だろうが、文次郎の記憶の中のそれよりもはるかに大きく成長している。

赤くひらひら水に舞う背びれをじっと眺めていると、が盆を片手に戻ってきて、

大きくなったでしょうと嬉しそうに言った。

「ずいぶん肥えたな、可愛くねぇ。餌をやりすぎだ」

「そんなことないわ、赤くてまるくて可愛いじゃない」

茶をいれながら、は頬を膨らませる。

「お利口さんなんだから。餌を食べるときに口をぱくぱくするのが可愛いのよ。ほら」

は餌を指先でつまんで、ぱらりと器の中にまいた。

金魚は水面に浮いてきて、餌をぱくついた。

「ほら可愛い。見ていてちっとも飽きないでしょう」

「お前、これ見たさに餌やりまくったんだろう」

は聞こえなかったふりをして、金魚に向かって可愛い可愛いと呟いた。

仕方のない奴だと諦め気味に息をつき、文次郎もしばらく金魚を眺めるに徹する。

「改名しろと言ったよな。手紙にも書いただろう」

「いいじゃない、文次郎がいつも面倒見てるわけでもないわ」

「冗談じゃねぇぞ……」

「じゃあ、赤いから、イチゴちゃん」

「……食い物多いよな、お前の発想って……」

さすがは菓子屋の跡取り娘かと、文次郎が呟くようにからかうと、は横目で軽く文次郎を睨んで見せた。

また金魚へと視線を戻し、しばらく、は囁き声で言った。

「文次郎のお手紙ね、今日届いたのよ」

「は? 出したのもう一週近く前だぞ」

「馬借便がね、雪のせいでずいぶん遅れたんですって」

「あーああ……なるほどな」

「びっくりしたわ。まさか手紙の届いた今日の今日、帰ってくるなんて思わないもの」

「そうだな」

の言葉に、文次郎の返した返事はほとんど上の空のようだった。

どうとでも取れるような相槌ばかりを打ちながら、

文次郎はただ触れるほどそばに座っているのことばかりに気をとられ続けていた。

金魚を見つめている目はなかば伏せられ、文次郎をかえりみもしない。

文次郎の視線がの横顔にばかり注がれているということに、自身は気付いているのだろう。

わざと気付かぬ振りをし、ほとんど意味もなさないようなことばかりをは喋り続ける。

のその頬にかかる髪を一筋、文次郎はその指ですくい上げて耳の後ろへ撫でつけた。

はびくりと肩を震わせ、視線を絡ませようとはしないながら、文次郎のほうへ恐る恐る振り向いた。

吐息を感じるほどの近距離に、は躊躇うような顔をして見せながら、それでも逃げようとはしなかった。

文次郎はそのときなにも考えてはいなかった。

の唇が震えたのが恐れのためではないということだけを知っていた。

とうに言葉を飲み込んだの唇に、ただ押し付けるだけの口付けを贈る。

少しばかり時間をかけて、ゆっくりと離れたが、お互いに目を見交わすこともできなくて、

文次郎はやや乱暴にの身体を抱き寄せた。

はしばらく身体をかたくし、息を詰めて緊張した様子のままであったが、

やがて諦めたように文次郎の肩に寄りかかり、擦り寄った。

「……年が明ける夜中に、お参りに行きたいの」

「無茶言うな。今日の雪深さも寒さも尋常じゃない。年越しまでに緩むとは思えん」

「でも、行きたいんだもの」

の口調には、連れていってという願いの色がありありと宿っていた。

その誘惑に、今度ばかりは負ける方が問題だということは文次郎にもわかりきった話であった。

ただのぼることすら至難である石段を、雪の深い寒い夜にのぼるとなればただごとではすまない。

足場の悪さは言うまでもなく、寒気はの足をそれだけで蝕むであろうし、

文次郎がいくら手を引いてもかばおうとしても、とても登り切れるものとは思えなかった。

はわがままはわかっていると言いたげに、少々遠慮気味の声で続けた。

「子どもの頃に、一緒にお参りに行ったのを思い出したのよ。また一緒に行ってみたいだけなの」

「……足の具合はどうだ。寒さは堪えるだろう」

「痛みはないわ。いつもどおりに歩けるし、毎夜よくあたためてほぐすようにしているもの。平気よ」

「……俺には、そうは思えん」

せめて明るくなってからではいけないかと文次郎は問うたが、夜中に出かけてみたいのだとは譲ろうとしない。

いくつかの妥協案を出してみても、はやんわりとした口調ながら、絶対にうんと言おうとしなかった。

最後の最後、折れたのはやはり文次郎のほうである。

大晦日当夜、屋へ文次郎がを迎えに来、には寒さを凌ぐようよく着込むようにさせてでかける。

帰りには、神社から屋よりもわずかに距離の近い潮江の家へ戻ることにし、

文次郎は明るくなってから屋へと送り届ける。

わがままを言っている自覚は充分だったらしく、はそのあたりには反対をしなかった。

の様子を伺うのも済み、

やっと満足して文次郎は潮江の家へと本来の意味通りの帰省をするべく、屋を出た。

去り際に振り返ると、は見送りに立ちながら、照れくさそうに小さく微笑み、手を振った。

秋の祭礼の夜を思い出す。

あの日、確かに変わったお互いの距離感を、季節が巡る分の時間がもとへ戻してしまったのではないかと、

文次郎は少しばかり不安に思っていた。

しかしそれも、杞憂で済んでくれそうだ。

が己を見つめてくれる目に、これまでになかった熱がこもっているのを文次郎は静かに感じていた。

も似たような印象を、変化を、己に抱いているのだろうか。

冬休みのひとつ目の約束は、正直なところ困難を極める内容である。

雪深い中、あの長さ・高さの石段をのぼっていくのは普通の人でも一苦労だ。

苦い記憶はいつもあの石段にある。

同じようなことを、今己がの身に追体験させる必要は全くない。

とにかくの無事だけは確保しておかねばと思いながら、あの石段を制覇する法を考えるが、

単に細かく気配りしてのぼっていくより他にない。

開き直るより他になかった。

難しいことなのは百も承知で、けれどやっぱり文次郎は最後には断りきれなかった。

幼い頃の楽しい記憶を追い、が文次郎と一緒に時間を過ごすことを望んでくれているのだと思うと、

ただひたすら愛おしいがゆえに、彼は嫌とは言えなかった。

雪の道行きに、恨めしい思いで石段を見上げた。

思い起こさせることがこの石段の先におわす神の意志であるとするなら、それを避けることはすまいと彼は思う。

への愛おしさが身体中いっぱいを占めるようになった今も、

頭のどこかではに対する負い目の感情を拭い去ることができない。

忘れてしまっているほうが、と一緒にいるあいだには気まずくなくていいようだ。

わかっているのに、感情はどうしようもないところまで勝手に走っていってしまう。

しかし文次郎は、それを留め、己の負の感情を一時的にでも忘れることのできる方法をたったひとつ、見出した。

なにも考えず、求めるままにと口付けを交わしたことを思い出す。

が恐れも嫌がりもせず、静かに目を閉じて受け入れてくれたことを。

それだけで、文次郎の内側がなにかやわらかくあたたかな想いで満たされる。

秋から冬のあいだ、ずっと、会いたいと願い続けていた。

願いが叶えられてしまえば、もう少し近くに、もう少し触れてみたい、もう一度口付けてもいいだろうかと、

欲ばかりがじわりじわりと彼の頭の中に染み入るように存在感を増していく。

拒否をされることには恐れも感じながら、けれど確実に縮まっていくその距離を想う。

それだけでもう、何もいらないとさえ、頭では思ってしまう。

家路を急ぐ雪の道、今別れてきたばかりだというのに。

文次郎は肩越しにチラと、来た道を振り返った。

は屋内にすでに引き取ったあとであるが、

あの藍色ののれんが、文次郎になにか語るかのようにひらりと裾を揺らした。